No.104軽微変更届けの考え方
医療機器の軽微変更届出における「変更の日」の考え方
A. 結論(まずここだけお読みください)
- 軽微変更届出の期限は「変更後30日以内」です(医薬品医療機器等法〔薬機法〕第23条の2の5「医療機器等の製造販売の承認」に関する規定)。
- しかし、「変更をした日」がいつを指すのかについて、法令・通知に「設計移管日」「出荷日」といった明文の定義は置かれていません。
- 当社としての実務上の推奨解釈は次のとおりです。
起算点は「承認書の記載事項と実際の製品・製造の実態にズレが生じた日」。 多くの設計・仕様変更では、これは変更後の仕様・製造方法で最初に製造を開始した日(=変更を反映した最初のロットの製造開始日)に相当します。
- 設計移管日(社内マイルストーン)はまだ実態のズレが生じていないことが多く、市場出荷日は製造より後の日付になるため届出が遅れる方向に働きます。したがって、いずれも起算点としては推奨しません。
- 時間軸のイメージ:
設計移管 → ★製造開始(推奨起算点)→ 出荷判定 → 市場出荷
└──── ここから30日以内に届出 ────┘
(さらに安全side:★より前、または★と同時に届出してしまう)
- 軽微変更届出は「30日以内」が期限であって、変更前や変更と同時に提出しても差し支えありません。期限超過リスクを避けるには、事前提出・同時提出が実務上最も安全です。
- 変更の類型によっては製造開始日以外が妥当な場合もあります(例:社名変更=登記上の効力発生日)。また、PMDAの「医療機器変更届出事前確認簡易相談」を利用する場合には、相談の申込日・相談結果の通知日を基準とした届出時期の取扱いが案内されることがありますので、利用時はPMDAの案内に従ってください。
※ 上記は法令に明文化された定義ではなく、当社がコンサルタントとして推奨する実務上の解釈です。「唯一の正解」として断定するものではありません。重要品目やグレーゾーン事例は、PMDAまたは所管の都道府県薬務主管課へ個別にご確認ください。
B. 用語の整理(初めての方向け)
| 用語 | 読み・正式名 | 意味 |
|---|---|---|
| 一変 | いっぺん(一部変更承認申請) | 承認内容のうち品質・有効性・安全性に影響し得る変更について、実施する前に審査を受け、承認を得る手続き |
| 軽変 | けいへん(軽微変更届出) | 影響が軽微で、所定の範囲内に収まる変更について、届出で足りる手続き(変更後30日以内) |
| 設計移管 | Design Transfer | 設計仕様を「製造できる仕様」に落とし込み、製造部門へ引き渡す社内工程(ISO 13485:2016 7.3.8) |
| DHF | Design History File:設計履歴ファイル | 設計・開発の経緯を示す記録の集合体 |
| DHR | Device History Record:製造履歴記録 | ロットごとの製造・検査の実績記録 |
| ECO | Engineering Change Order:技術変更指図 | 設計・仕様変更を正式に発効させる社内指図書 |
| IDATEN | 医療機器の変更計画確認制度の通称 | 改良計画をあらかじめ当局に確認してもらい、変更時の手続を効率化する制度 |
C. 根拠となる規定・参照すべき文書
C-1. 法令
| 区分 | 規定 | 内容 |
|---|---|---|
| 承認・変更の根拠 | 薬機法 第23条の2の5(医療機器等の製造販売の承認) | 承認事項を変更しようとするときは、厚生労働省令で定める軽微な変更を除き、事前に変更の承認(一部変更承認)を受ける必要がある |
| 軽微変更届出 | 同条(上記の次項に相当する規定) | 厚生労働省令で定める軽微な変更については、変更後30日以内に厚生労働大臣(実務上はPMDA経由)に届け出る |
| 軽微な変更の範囲 | 薬機法施行規則(昭和36年厚生省令第1号) | 「軽微な変更」に該当しないもの(=一変が必要なもの)を列挙する形で範囲を規定 |
※ 薬機法・施行規則とも、条・項番号は度重なる改正で変動しています。本回答ではあえて項番号の断定を避けています。実際の届出書・社内SOPに条項を引用する際は、必ず上記e-Govで最新条文の項番号をご確認ください。
C-2. 実務上、最も重要な通知
軽微変更で足りるか一変が必要かの判断は、法令の条文だけでは判断できません。実務では次の通知(及びその別紙)が最重要です。
- 「医療機器の一部変更に伴う軽微変更手続き等の取扱いについて」
- 一部変更承認申請が必要な変更、軽微変更届出で足りる変更、そして事前確認(簡易相談)を経たうえで軽微変更届出とするカテゴリーが、別紙に類型ごとに整理されています。
- PMDA:医療機器の一部変更に伴う軽微変更手続き等の取扱いについて(掲載ページ)
- 通知本文(PDF)
- 関連通知の一覧: PMDA:医療機器の承認審査に関する各種関連通知
C-3. 判断に迷う場合の相談制度
- 医療機器・体外診断用医薬品 変更届出事前確認簡易相談
- 上記通知で「事前確認」の対象とされる変更類型などについて、軽微変更届出で差し支えないかをPMDAに確認する制度です。
- 相談結果に基づいて届出を行う場合、届出の時期(変更日の取り方)についてPMDAから運用上の案内がなされることがありますので、申込前に必ず最新の案内をご確認ください。
- PMDA:簡易相談(医療機器・体外診断用医薬品)
D. 「変更の日」をどう捉えるか(詳細)
D-1. 基本的な考え方
軽微変更届出は、「承認書の記載内容と、実際に製造販売している医療機器の実態との間にズレが生じたこと」を当局に知らせる手続きです。したがって起算点は「実態が承認書と異なる状態になった日」と考えるのが法の趣旨に合致します。
D-2. 変更類型別の目安
| 変更の類型 | 実務上の「変更をした日」の目安 | 具体例 |
|---|---|---|
| 形状・構造・寸法・原材料等の仕様変更 | 変更後の仕様で最初に製造を開始した日 | 樹脂グレードを所定範囲内で変更 → 新グレードで最初のロットの製造を開始した日 |
| 製造方法(工程条件等)の変更 | 変更後の方法で最初に製造を開始した日 | 滅菌条件を所定範囲内で変更 → 新条件で最初に滅菌を実施した日 |
| 製造所の追加 | 追加した製造所で当該製造行為を開始した日 | 第二工場での組立開始日 |
| 製造販売業者・製造業者の名称・所在地の変更 | その変更の効力が生じた日 | 社名変更 → 登記上の新社名の効力発生日 |
| 販売名の変更・表示の変更 | 新販売名・新表示での製造(表示)を開始した日 | 新販売名のラベルを最初に貼付した製造日 |
※ このように、「すべての変更で製造開始日固定」ではありません。表示や社名など、製造工程を伴わない変更では別の起算点が妥当になります。共通する考え方は「実態が承認書とズレた瞬間」です。
D-3. 設計移管日・市場出荷日との関係
- 設計移管日は、設計仕様を製造仕様へ引き渡す社内のマイルストーンにすぎず、法令上の「変更」を直接示すものではありません。移管しても実際の製造が始まっていなければ、承認書と実態のズレはまだ生じていない、という整理が一般的です。
- 市場出荷日は、製造 → 試験検査 → 出荷判定を経た後の日付です。これを起算点にすると、当局の想定より届出が遅れる方向に働くため推奨しません。
D-4. 段階的に切り替える場合(複数ロットにまたがる変更)
旧仕様と新仕様を並行生産する、在庫消化後に順次切り替える、といったケースでは、「変更を初めて反映したロットの製造を開始した日」を基準とし、その日から30日以内に届け出るのが通常の考え方です。「全ロットの切替が完了した日」ではない点にご注意ください。
D-5. 「30日以内」の数え方
- 行政手続一般では、民法第140条の「初日不算入」の原則により、変更日の翌日から起算して数えるのが基本的な考え方です。
- ただし1日の差で期限超過となるリスクを避けるため、実務では「変更日を1日目として30日以内」という保守的な運用を社内SOPで定めている企業も多くあります。当社としても保守的運用を推奨します。
※ 個別事案の期限計算について不安がある場合は、PMDAへご確認ください。
D-6. 事前提出する場合の留意点
事前・同時提出は安全ですが、次の点をSOPで決めておくと安心です。
- 事前提出後に設計・製造の事情で変更を実施しないことになった場合、届出内容と実態が一致しなくなります。この場合の取扱い(社内記録に実施しなかった旨と理由を残す/必要に応じてPMDAへ取扱いを相談する等)をあらかじめ定めておく。
- 事前提出は「近い将来確実に実施する変更」に限定し、実施が不確定な段階での提出は避ける。
E. 特に注意すべき事項
E-1. そもそも「軽微変更」で足りるかの見極めが最重要
30日要件よりもはるかにリスクが大きいのは、本来一部変更承認申請が必要な変更を軽微変更届出で処理してしまうことです。この場合、承認内容と異なる製品を製造販売したことになり、回収や行政処分に発展し得ます。
- 一変が必要となる典型例:使用目的又は効果の追加・変更、性能・仕様の本質的な変更、滅菌方法の変更、製造方法の重要な変更、安全性に影響する原材料の変更 など
- 軽微変更届出で足りる典型例:実質的内容に影響しない販売名の変更、所定範囲内の表示・使用方法等の記載整備、一定の場合の製造所の追加・変更 など
- 具体的な線引きは、C-2の通知の別紙で類型ごとに示されています。まずこの通知を確認し、判断が難しい場合は事前確認簡易相談を活用してください。
E-2. 複数の変更をまとめて届け出る場合
複数の軽微変更を1件の届出にまとめる運用は効率的ですが、期限は「最も早い変更実施日から30日」です。「最後の変更が終わってから30日」ではありません。
理由は単純で、最初の変更が実施された時点で既に承認書と実態のズレが生じており、その変更については30日の時計が動き始めているためです。したがって、まとめると最初の変更にとっては実質的に猶予が短くなり、期限超過リスクが高まります。まとめる場合は、変更のタイミングが近接しているものに限るのが安全です。
E-3. QMS適合性調査との関係
軽微変更届出であっても、製造所の追加等では、基準適合証の範囲との関係でQMS適合性調査が別途必要になる場合があります。届出だけで完結すると思い込まず、QMS側の手続きの要否を必ず併せて確認してください。
E-4. 変更計画確認制度(IDATEN)の検討
将来的な改良(性能向上等)が計画されている場合、あらかじめ変更計画の確認を受けておくことで、変更実施時の手続負担を軽減できる制度があります。
- 根拠となる通知は「医療機器の変更計画の確認申請の取扱いについて」(令和2年〔2020年〕8月31日付 厚生労働省通知)等で、その後も関連通知・情報公開に関する取扱いが順次整備されています。2025年に新たに創設された制度ではありません。
- 中長期の改良ロードマップがある製品では、変更管理戦略として検討する価値があります。
※ 通知の発出番号は改正・整理により表記が異なる場合があるため、本回答では番号を記載していません。PMDAの関連通知一覧ページ(前掲)で原本をご確認ください。
E-5. 社内の設計変更管理(QMS)との整合
薬機法上の届出は「出口」であり、その前段としてQMS上の設計変更管理が適切に行われている必要があります。
- ISO 13485:2016 7.3.9(設計・開発の変更):変更は実施前にレビュー・検証・(適切な場合)バリデーション・承認を行い、記録を維持すること。さらに、構成部品、工程内の製品、既に引き渡された(出荷済みの)製品への影響評価を含めることが求められます。
- 米国 21 CFR 820.30(i)(設計変更):設計変更の識別・文書化・検証/バリデーション・レビュー・承認を実施前に行うことを要求。
- なお、FDAは2024年2月にQMSR(Quality Management System Regulation)最終規則を公表し、21 CFR Part 820をISO 13485:2016に整合させる改正を行いました。適用開始は2026年2月2日とされており、それまでは従来のQSRが適用される、という移行スケジュールが設けられています。「すでに完全に置き換わっている」という理解は誤りですので、自社の対応時期を確認してください。
- 21 CFR Part 820(eCFR)
- ISO 14971:2019:製造および製造後の活動から得た情報により、新たなハザードやリスク受容性の変化が判明した場合は、リスクマネジメントの見直しが必要です。
E-6. 記録上の「変更実施日」を社内で定義しておく
査察・調査で必ず問われるのが「いつ変更したのか」です。次の点をSOPで明確化しておくことを強く推奨します。
- 「変更実施日」の定義(例:変更後仕様での最初の製造指図の発行日/製造開始日)
- 変更実施日を客観的に示す記録(製造指図記録、DHR〔製造履歴記録〕、ECO〔技術変更指図〕の発効日 など)
- 届出要否の判定記録(誰が、どの基準・通知条項に基づき、一変ではないと判断したか)
- 届出日と実施日の対応表(品目別の届出管理台帳)
E-7. 出荷済み製品・海外規制への波及
- 設計変更は、これから製造する製品だけでなく、すでに市場にある製品への対応(是正・回収の要否)も同時に検討する必要があります。
- 米国では 21 CFR 807.81(a)(3) に基づく新規510(k)提出の要否判断、欧州ではEU MDR上の「重要な変更(significant change)」に関する手続きが別途必要になる場合があります。日本で軽微=海外でも軽微、とは限りません。
F. 推奨する社内フロー(例)
- 設計変更の起案(変更管理番号の発行)
- インパクト分析・リスク評価(製品、工程、工程内在庫、出荷済み品、規制影響)
- 薬事影響評価:一変/軽微変更届出/届出不要 の判定 → 判断困難ならPMDA簡易相談
- 検証・バリデーション、設計変更の承認(ISO 13485:2016 7.3.9)
- 軽微変更届出書の作成 → 変更実施前または実施と同時に提出(遅くとも変更実施日から30日以内)
- 変更実施(=変更後仕様での製造開始)/「変更実施日」を客観的記録とともに確定
- QMS適合性調査の要否確認、表示・添付文書、DHF・技術文書、海外規制対応の更新
- 届出管理台帳への記録・保管
G. まとめ
| 論点 | 当社の推奨 |
|---|---|
| 起算日 | 「承認書と実態にズレが生じた日」。多くの仕様・製造方法変更では変更後仕様での製造開始日(設計移管日でも市場出荷日でもない) |
| 例外 | 社名変更等は効力発生日など、類型により起算点が異なる。簡易相談利用時はPMDAの案内に従う |
| 段階切替 | 変更を初めて反映したロットの製造開始日が基準 |
| 提出タイミング | 30日以内が法定期限だが、事前提出または同時提出が実務上安全 |
| まとめ届出 | 期限は最も早い変更実施日から30日。まとめると猶予が短くなる |
| 最大のリスク | 30日超過よりも、一変事項を軽微で処理してしまうこと(承認外製造による回収リスク) |
| 迷った場合 | 通知「医療機器の一部変更に伴う軽微変更手続き等の取扱いについて」を確認し、PMDAの変更届出事前確認簡易相談を活用 |
| 社内対応 | SOPで「変更実施日」の定義と客観的証跡、30日のカウント方法を明確化 |
ご質問の「設計移管した日か、市場出荷した日か」については、いずれでもなく、「実際に承認書と異なる状態が生じた日」=多くの場合は変更後仕様での製造開始日を基点とする、というのが当社としての実務上の推奨解釈です。
ただし、繰り返しになりますが、これは法令に明文の定義があるものではなく、変更の類型や過去の照会実績によって妥当な起算点が異なり得ます。重要品目・グレーゾーン事例については、通知本文をご確認のうえ、PMDAまたは所管の都道府県薬務主管課へ個別にご確認いただくことをお勧めいたします。
株式会社イーコンプライアンス



