No.118医療機器の製造・出荷検査に使用する測定機器の電子文書・記録管理に関するQMS要求事項と運用上の注意点

医療機器規制全般投稿者: スガ2026年9月30日 11:42
医療機器の製造工程、出荷検査で使用する測定機器の登録依頼、管理台帳、使用記録、不具合記録、校正書類(校正証明書、試験成績書)の文書・記録を電子媒体で運用する際の文書・記録のレビュー、承認、保管に関する法規制や注意事項を教えてください。

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公式回答株式会社イーコンプライアンス2026年9月30日 11:51

医療機器の製造・出荷検査に使用する測定機器の電子文書・記録管理

― QMS要求事項と電子化運用時の注意点 ―


1. 結論(まず押さえる5点)

  1. 「文書(Document)」と「記録(Record)」を切り分けることが出発点です。どちらに当たるかで、適用される管理(発行前レビュー・承認・改訂管理か/識別・保管・保護・検索・保管期間・廃棄か)が変わります。なお区分は書類の名称で固定されるものではなく、その書類がどの場面で何を証明するかで判断します(同じ「管理台帳」でも、様式やマスタ定義は文書的要素、記入されたデータは記録です)。
  2. 日本国内で法的に適用されるのは、原則としてQMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令/平成16年厚生労働省令第169号)とその解釈通知です。ISO 13485:2016 は認証・契約上の要求であり、QMS省令と内容は近いものの同一ではありません。両者は分けて理解してください。
  3. 電子媒体で運用する場合の設計要件は、①記録の完全性(真正性)、②可読性・検索性、③保存性(長期保存・媒体/形式の陳腐化対策)、④アクセス制御と承認の追跡可能性、⑤当該システムのバリデーションの5点が中核です。「紙と同等」という一般条項が省令にあるわけではなく、適用される法令・自社QMS手順の要求を電子環境でも満たし、それを検証できる状態にしておくことが求められます。
  4. 見落とされやすいのは外部(校正機関)発行の校正証明書・試験成績書の扱いです。これは「外部からの文書」と「適合性の証拠としての記録」の両面を持ち、受入レビューと承認者の明確化、および公差外(OOT:Out of Tolerance)判定時の遡及的影響評価の手順化が、審査・査察での頻出論点です。
  5. ハイブリッド運用(紙とPDFの併存)で最も多い不備は、どちらが「原本(正)」かを社内規程で一義的に定義していないことです。

※ 用語の補足:QMS(Quality Management System/品質マネジメントシステム)、OOT(校正の結果、許容公差を外れていたこと)、CAPA(Corrective Action and Preventive Action/是正処置・予防処置)。


2. 最初に確認していただきたいこと(適用範囲の切り分け)

要求事項は仕向け地と自社の立場で変わります。次を先に確定すると、以降の検討が大きく整理できます。

  • 対象市場:日本のみか、米国・EU等への輸出があるか
  • 自社の立場:製造販売業者/登録製造所(最終製品製造所・部品製造所・設計開発拠点など)
  • 対象機器:製品の合否判定(出荷判定)に直接使う測定機器か、参考測定用か
  • 校正の実施主体:社内校正か、外部校正機関への委託か
  • 電子記録の位置づけ:電子が原本か、紙原本の補助コピー(写し)か
  • 対象システム:専用の機器管理システム/Excel台帳/文書管理システム/それらの併用か

3. 初心者向け:まず満たすべき「最低限の5条件」

電子化の細部に入る前に、次の5つが担保できているかを確認してください。難しい要求事項の多くは、結局この5点に集約されます。

  1. 誰が作成し、誰がレビューし、誰が承認したかが記録から分かる(日時付き)
  2. 承認後に勝手に書き換えられない(権限分離・上書き防止)
  3. 変更した場合は変更前の値・変更理由・変更者・日時が残る
  4. 必要な期間、読める状態で保存され、必要なときに探し出せる
  5. OOTが判明したとき、その機器で過去に測定した製品・ロット・検査記録を追跡できる

4. 文書と記録の区分(具体例)

例 区分 理由
測定機器管理規程、校正手順書(承認済み・現行版) 文書 「これから行うこと」を定めたもの
承認前の手順書案 管理対象だが現行文書ではない 現場で使用されないよう識別が必要
旧版の手順書 廃止文書 誤使用防止のための識別・隔離が必要
空欄の「測定機器登録依頼書」様式、空欄の校正結果記録様式 文書(様式) 改訂管理の対象
記入・承認済みの登録依頼書、校正結果 記録 「実際に行った結果」の証拠
管理台帳(項目定義・計算式・マスタ) 文書的要素 変更管理・検証の対象
管理台帳の個々の登録データ、校正期限、ステータス 記録 実績データ
外部校正機関の校正証明書・試験成績書 外部文書 かつ 記録 受領・識別の管理と、品質記録としての管理の両面

5. 対象書類と適用要求事項のマッピング

「日本の法令」と「ISO規格」を分けて示します。

対象書類 日本:QMS省令(該当条文名) ISO 13485:2016 電子化時の主な論点
測定機器管理規程・手順書 品質管理監督文書の管理(第8条) 4.2.4 発行前レビュー・承認、改訂履歴、現行版の識別、旧版の誤使用防止
登録依頼書 記録の管理(第9条)/監視機器及び測定機器の管理 4.2.5、7.6 申請者・承認者の特定、権限管理、日時記録
管理台帳 第8条(様式・定義)/第9条(データ) 4.2.4、4.2.5、7.6 変更履歴、改ざん防止、校正期限アラート、ステータス管理
使用記録 第9条/製造管理・工程管理関連条文 4.2.5、7.5.1、7.6 製品ロット・検査記録との紐付け、記録作成の同時性
不具合記録(故障・OOT等) 第9条/不適合製品の管理・是正処置関連条文 4.2.5、8.3、8.5.2 不適合管理・CAPAとの連携、影響評価結果の保存、削除・上書き防止
校正証明書・試験成績書(外部発行) 第8条(外部文書)/第9条/監視機器及び測定機器の管理 4.2.4、4.2.5、7.6 受入レビューと承認、真正性確認、標準へのトレーサビリティ、保管期間
外部校正機関の管理 購買管理・外部委託関連条文 7.4 供給者評価・承認、委託仕様、再委託管理
上記を扱う電子システム 品質管理監督システムに使用するソフトウェアのバリデーション(第5条の6) 4.1.6 リスクに応じたバリデーション範囲

※ QMS省令の条番号(第8条、第9条、第5条の6、監視機器及び測定機器の管理に関する条文など)は当社の理解に基づく記載です。QMS省令は改正が行われているため、必ず最新の原文で条文名(「品質管理監督文書の管理」「記録の管理」「監視機器及び測定機器の管理」「…ソフトウェアのバリデーション」等)を検索し、条番号をご確認ください。条番号の断定は避けています。


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6. 根拠となる法規制・規格

6.1 日本:QMS省令(法的要求)

  • 「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第169号) → e-Gov法令検索:QMS省令 本文
  • 測定機器管理に関して法令上確認すべき要素(条文名で確認してください)
    • 校正または検証の実施と、その基準・頻度の設定
    • 国家標準または国際標準への計量トレーサビリティ(標準が存在しない場合は用いた根拠の記録)
    • 機器の識別、校正状態の識別
    • 調整・再調整、および校正結果を無効にしないための取扱い
    • 取扱い・保守・保管中の損傷・劣化からの保護
    • 要求事項に適合していないと判明した場合の、過去の測定結果の妥当性評価と適切な処置
    • 校正・検証の記録の維持
  • 条文解釈は、厚生労働省から発出されているQMS省令の取扱いに関する通知(逐条解説)を必ず併読してください。
    ※ 当該通知の正式名称・発出番号・発出日について、当社で確実に特定できる形の一次情報URLを確認できなかったため、リンクおよび番号の記載は行いません。厚生労働省の通知検索またはPMDAサイトで「QMS省令の取扱いについて」により最新版をご確認ください。推測URLの掲載は行いません。

6.2 ISO 13485:2016(認証・契約上の要求)

  • ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes → ISO公式:ISO 13485:2016 の規格ページ
    ※ このリンクは規格の概要・購入ページであり、規格本文を無償閲覧できるページではありません。条文の正確な文言は正規版(またはJIS Q 13485:2018)でご確認ください。規格本文は著作権保護対象のため、以下は当社による要約です。
  • 関係する箇条(要約)
    • 4.2.4 文書管理:発行前のレビューと承認、変更時の再レビュー・再承認(変更のレビュー・承認は、その文書を当初承認した部門、または指名された部門が行う趣旨)、現行改訂版の識別、必要な場所での使用可能性、読みやすさ、外部からの文書の明確化と配布管理、劣化・紛失の防止、廃止文書の誤使用防止
    • 廃止文書の保有:当該医療機器の製造・検査に使用された文書を、組織が定めた医療機器の寿命に相当する期間は入手可能とし、かつ記録の保管期間や規制要求の期間より短くしない
    • 4.2.5 記録の管理:記録の識別、保管、保護、検索、保管期間、廃棄についての手順の文書化
    • 7.6 監視機器及び測定機器の管理:上記6.1に挙げた要素とほぼ同旨
    • 7.4 購買:外部提供者(校正機関等)の評価・選定・監視
    • 4.1.6:QMSに使用するコンピュータソフトウェアのバリデーション(リスクに応じたアプローチ)

6.3 電子記録・電子署名(日本/適用範囲に注意)

  • 「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号) ― 通称ER/ES指針
    • 3要件:真正性/見読性/保存性
    • ただし本指針は主として承認・許可等の申請等に関する記録を対象としており、QMS上の測定機器記録に一律・直接適用される規定ではありません。当社としては、法的義務としてではなく、電子記録の設計原則として3要件を自社標準に採用することを推奨します。
  • 「医薬品等の製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成24年4月1日 薬食監麻発0401第2号)
    • 医薬品・医薬部外品を対象とするガイドラインであり、医療機器QMSに直接適用されるものではありません。バリデーション計画・報告、運用管理(バックアップ、セキュリティ、変更管理、自己点検)の考え方は実務参考として有用です。

※ 上記2通知については、当社で本文の恒久的なURLを確認できなかったため、リンクは付さず、通知名と発出番号のみを記載しています(推測URLの掲載は行いません)。

6.4 米国向けの場合(該当する場合の追加事項)

  • 21 CFR Part 820(Quality Management System Regulation:QMSR) → eCFR:21 CFR Part 820
    • 2026年2月2日施行で、ISO 13485:2016 を参照により取り込む(incorporation by reference)構成に改められています。
    • したがって測定機器管理は実質的に ISO 13485 7.6 の要求に沿った運用となりますが、旧820.72が7.6に「読み替わる」という法的読み替え規定があるわけではありません。Part 820 には定義(§820.3)、§820.7(参照文書)、§820.10(QMS要求)や記録・査察対応に関する米国固有の規定が残るため、Part 820の現行条文を通読して差分を確認してください。
  • 21 CFR Part 11(Electronic Records; Electronic Signatures) → eCFR:21 CFR Part 11
    • 日本のQMSに直接適用される法令ではありません。 FDA所管の規制記録を電子形式で作成・維持・提出する場合に適用され、適用の有無は記録の作成・維持・提出の態様によって判断されます。
    • 条文上の主な要求:§11.10(クローズドシステムの管理:バリデーション、正確かつ完全なコピーの作成能力、記録の保護、アクセス制限、コンピュータ生成のタイムスタンプ付き監査証跡、操作順序チェック、権限チェック、教育訓練、方針の文書化)、§11.30(オープンシステム)、§11.50(署名の表示事項)、§11.70(署名と記録の結合)
    • 後述する「2要素認証」「監査証跡の定期レビュー」「論理削除」などは、Part 11の条文上の直接要求ではなく、データインテグリティ確保のための実務上の推奨策として位置づけてください。

6.5 EU向けの場合(該当する場合の追加事項)

  • Regulation (EU) 2017/745(EU MDR) Article 10(9)(QMS)、Annex II/III(技術文書) → EUR-Lex:Regulation (EU) 2017/745
    • 測定機器の校正証明書や個々の使用記録が、常に技術文書の一部として要求されるわけではありません。通常はQMSの記録(製造記録・検査記録・検証記録)として管理され、適合性評価や監査の際に根拠として提示されます。

6.6 データインテグリティ(参考・法定要求ではありません)

  • PIC/S PI 041「Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments」
    • 医薬品GMP/GDPを対象とするガイダンスで、医療機器QMSに直接適用される法令・規格ではありません。
    • ALCOA+原則(Attributable:帰属性、Legible:判読性、Contemporaneous:同時性、Original:原本性、Accurate:正確性 + Complete、Consistent、Enduring、Available)も、QMS省令やISO 13485に明示された法定要件ではありません。社内標準/補足的な設計原則として採用するのが適切です。
    • ※ 当社で本ガイダンスの現行版PDFの正確なURLを確認できなかったため、リンクは付していません。PIC/S公式サイト(picscheme.org)のPublicationsページで文書番号「PI 041」により最新版をご確認ください。

7. 電子運用における「レビュー・承認」の実務ポイント

7.1 承認は「誰が・いつ・何に対して・どの意味で」行ったかを証明できること

論点 要求/推奨の内容
承認権限の定義 職務権限規程等で、測定機器の登録承認者、校正結果の判定者、不具合処置の承認者を役職名で明記する
承認手段の選択 すべての記録に電子署名が法的に必須というわけではありません。電子署名が必要な記録と、システムの承認履歴(ワークフロー記録)で足りる記録を、記録の重要度・適用法規に基づいて区別してください
認証情報の管理 個人の識別性を確保するため、共有アカウントは原則として使用しない。パスワードの貸与禁止をSOPに明記
署名の意味の明示 「作成」「照査」「承認」のいずれかを画面・記録上に表示(米国向けは §11.50 の考え方)
タイムスタンプ システムが自動付与するサーバー時刻を使用し、手入力日付のみに依存しない
署名と記録の結合 署名を記録から切り離せない仕組み(米国向けは §11.70 の考え方)
職務分離 申請者と承認者が同一にならない設定が望ましい。小規模組織で分離が困難な場合は、独立した第三者レビューや事後確認を規程で代替統制として定義する(法令が一律に分離を明示要求しているわけではありません)
未承認版の流出防止 承認前は「Draft」透かし、正式版のみ閲覧領域に自動公開など

7.2 記録作成の同時性と代行入力

  • 原則は測定・作業の実施時点での記録作成(同時性)です。
  • ただし、装置が使用ログを自動取得しない、紙記録を後から電子化する等の事情はあり得ます。一律禁止とするのではなく、例外時の条件を規程化してください。
    • 実施日時と入力日時の両方を記録する
    • 代行入力の場合は、原情報の作成者(実施者)・入力者・理由・確認者を記録する
    • 事後入力の許容期限を定める

7.3 外部発行の校正証明書・試験成績書の受入レビュー

校正証明書は「外部からの文書」として識別・配布管理(ISO 13485 4.2.4/QMS省令 第8条)が必要であると同時に、適合性の証拠としての品質記録でもあります。受領して綴じるだけでは不十分で、次の受入レビューを記録として残してください。

  • 管理番号・製造番号が管理台帳と一致しているか
  • 校正実施日、次回校正期限が妥当か
  • 国家標準(JCSS等)/国際標準への計量トレーサビリティが示されているか
  • 測定不確かさが、当該機器の用途(製品規格・許容公差)に照らして十分小さいか
  • 判定(合格/不合格、As Found/As Left)が社内判定基準に照らして妥当か
  • 校正機関が供給者評価・承認済みか(ISO/IEC 17025 認定範囲に当該測定量・範囲が含まれるかの確認を推奨)
  • レビュー者・承認者の署名と日付

※ 認定校正機関を使えば自社の測定機器が自動的に「用途に適合」となるわけではありません。精度・測定不確かさ・製品許容公差・判定ルールの関係を用途ごとに評価し、その評価結果を記録してください。

7.4 校正周期の設定根拠

「年1回」が法的要求というわけではありません。周期は次の要素をふまえて自社で決定し、根拠を記録してください。

  • 機器の用途(製品判定に直接使うか)と要求精度
  • 使用頻度、使用環境(温湿度・振動・粉塵等)
  • 過去の校正履歴(ドリフト傾向)、修理・故障履歴、OOT発生状況
  • メーカー/校正機関の推奨周期

7.5 OOT(公差外)判明時のプロセス

ISO 13485 7.6/QMS省令の該当条文は「過去の測定結果の妥当性評価と適切な処置」を要求します。すべてのOOTが直ちに回収等の市場措置を意味するわけではありません。次の手順を定義してください。

  1. As Found(校正時の受領状態)の値・ずれ量の確認
  2. 遡及範囲の決定(前回の適合校正日または前回正常確認日まで)
  3. 当該期間に使用された製品・ロット・工程・出荷判定の特定
  4. ずれ量と製品規格・許容公差を比較した影響評価
  5. 再測定・再検査、出荷保留、顧客通知、回収等の必要性判断
  6. 不適合製品管理・CAPA起票、当局報告の要否判断
  7. 影響評価の根拠と最終承認の記録

※ 電子システムでは、機器管理番号から、その機器を使用した期間の検査記録・ロットを逆引き検索できる設計にしておくと、影響範囲特定の工数とリスクを大幅に低減できます。


8. 保管に関する注意点

8.1 保管期間

観点 内容
QMS省令(法定) 記録の保管期間は、記録の管理に関する条文および第3章(追加的要求事項)の文書・記録の保管に関する条文に規定されています。製品区分(特定保守管理医療機器か等)、有効期間・使用の期限の有無、事業者の立場(製造販売業者/登録製造所)、記録の種類によって年数が異なるため、具体的な年数はここでは断定しません。必ず最新条文と逐条解説通知で自社の製品・記録ごとに確定してください
ISO 13485 4.2.4 廃止文書は、組織が定めた医療機器の寿命に相当する期間は入手可能とし、記録の保管期間や規制要求の期間より短くしない
ISO 13485 4.2.5 記録の保管期間を組織が定め、手順書に明記する
整合の実務 「法定期間」と「規格上の期間(医療機器の寿命)」は別の概念です。両者を比較し、長い方を自社の保管期間として設定し、文書・記録の種類ごとに一覧表で管理するのが実務的です。一律の不等式で片付けず、種類別に個別確認してください
見落としやすい点 測定機器を廃棄した後も、その機器で検査した製品の記録が保管期間内である限り、当該機器の校正証明書・不具合記録は廃棄できません

8.2 バックアップとアーカイブは別物

区分 目的 満たすべき事項
バックアップ 障害・災害からの復旧 遠隔地または別系統ストレージ、世代管理、復元(リストア)テストの定期実施と結果の記録
アーカイブ 保管期間を満たす長期保存 完全性、可読性、検索性、メタデータ(作成者・日時・版)、監査証跡の保存、アクセス制御、保存期間管理、廃棄手順

※ 「バックアップを取っているから保管要求を満たす」とは言えません。アーカイブの設計を別途行ってください。

8.3 長期保存性(Durability)で設計に織り込む事項

  1. ファイル形式:将来の可読性を確保できる形式を選ぶ。PDF/A等の長期保存形式は有力な選択肢ですが、PDF/AがQMS省令やISO 13485で要求されているわけではありません。重要なのは、可読性・完全性・検索性・関連メタデータ・必要な場合の原データへのアクセスです。
    • 校正結果がPDFのみで、元データや測定不確かさ情報が別システムにある場合、PDF化だけでは不十分なことがあります。
  2. システム更新・リプレイス時のデータ移行:移行の妥当性検証(件数・内容・属性・監査証跡の一致確認)を計画・実施・記録する。
  3. 署名者の特定可能性:退職後もユーザーIDを再利用せず、過去の署名者を特定できること。
  4. 査察対応:当局の求めに応じ、正確かつ完全な人間可読のコピーを速やかに提供できること(米国向けは §11.10(b) の考え方)。

8.4 ハイブリッド運用(紙+電子)での原本定義

最も指摘が多い領域です。以下を規程で一義的に定めてください。

  • 紙で受領した校正証明書をスキャンしてPDF保管する場合
    • 原本は紙か、スキャンPDFかを定義する
    • PDFを原本とし紙を廃棄する運用なら、スキャンの完全性・判読性を検証する手順(照合者による確認と、確認日・確認者の記録)が必要
    • 押印・裏面・色情報などが欠落しない条件(解像度、カラー、両面)を規定する
  • 測定機器が出力する生データ(Raw Data)
    • 出力形態(感熱紙、CSV、機器固有形式、装置内メモリ)を機器ごとに整理する
    • 感熱紙は経年退色するため、そのままの保存は保存性の観点でリスクです。複写または電子化の手順(作成日・作成者・照合者の記録を含む)を定める
    • 電子データが規制上の原データに該当する場合、印刷物だけを残して電子データを削除して良いかを機器・データフローごとに評価する
    • 機器内メモリからの削除・上書きの可否、監査証跡機能の有無を機器ごとに評価・記録する

9. 電子システム側の要求(バリデーションとセキュリティ)

ISO 13485 4.1.6/QMS省令の「品質管理監督システムに使用するソフトウェアのバリデーション」に関する条文により、QMSに使用するソフトウェアは使用前にバリデーションし、変更時にもリスクに応じて再バリデーションが必要です。

項目 実施内容の例
バリデーション 要求仕様(URS)→ リスクアセスメント → 検証計画・テスト(IQ/OQ/PQ または相当)→ 報告。Excel台帳やクラウドサービス(SaaS)も対象であり、ノーコード/既製品でも免除されません
アクセス権限 役割ベース(RBAC)。閲覧/入力/承認/マスタ変更/削除を分離。棚卸し(定期的な権限レビュー)を実施
監査証跡 作成・変更・削除について「誰が・いつ・何を・旧値→新値・理由」を自動記録。監査証跡自体を無効化・編集できないこと
監査証跡レビュー 一律に全件を定期レビューする必要はありません。製品品質・校正判定・承認状態・保存記録に影響する重要データを対象に、レビュー対象・頻度・実施者・逸脱時の処置をリスクベースで定義するのが適切です
削除・訂正 物理削除ではなく無効化(論理削除)+理由記録を推奨。承認済み記録の訂正は、元記録の無効化、訂正版の作成、再レビュー・再承認、影響評価を含む手順とする
日付・時刻 NTP同期。一般利用者による時刻変更の禁止
変更管理 システム変更・パッチ適用、マスタ(機器区分、校正周期、判定基準など)の変更を変更管理プロセスに載せる
供給者管理(クラウド・SaaS) 供給者評価、SLA、データ所在地、監査権に加え、契約終了時のデータ返還形式、監査証跡のエクスポート可否、サービス停止時の継続性、ベンダー側でのデータ変更・削除の可否、サブプロセッサ(再委託先)、障害通知、保存期間中の可読性を確認
教育訓練 システム操作および承認・署名の意味と責任に関する訓練記録を保持
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9.1 Excel台帳をQMS記録の原本とする場合の評価ポイント

中小規模の現場で最も多い形態です。次を評価し、不足があれば代替統制(例:承認済みファイルの読み取り専用領域への移動と権限制御、印刷・署名版の併用)を定めてください。

  • シート保護・ブック保護だけで改ざん防止として十分か(パスワードの共有状況を含む)
  • 変更履歴が取得できるか、旧値と新値を復元できるか
  • 承認済みファイルを上書き・削除できない権限設定になっているか
  • ファイル名・版・保存場所の命名規則と管理ルールがあるか
  • 複数人同時編集による競合・上書き事故を防げるか
  • 数式・マクロの変更を検出・検証できるか(計算結果が判定に影響する場合は特に重要)
  • バックアップと、保管期間を満たすアーカイブが別途設計されているか

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10. データのライフサイクルで整理する

測定機器関連データは、次の各段階で管理策を決めておくと漏れが防げます(リスクに応じて深さを調整してください)。

段階 検討事項の例
作成・取得 実施者の特定、同時性、機器からの自動取得か手入力か
入力・変換 転記・変換時の検証、単位・丸め処理、変換履歴
レビュー・承認 承認者・承認日・承認の意味、権限
訂正・改訂 旧値保持、理由、再承認、影響評価
検索・閲覧 機器番号・ロット番号からの逆引き、閲覧権限
バックアップ 世代管理、復元テスト
移行 移行検証、監査証跡の継承
アーカイブ 形式、可読性、メタデータ、保管期間管理
廃棄 保管期間満了の確認、廃棄承認、廃棄記録

※ 外部からPDFで受領する証明書については、受領日時・受領者・受領経路・原本性の判断・ファイル変換履歴を記録する必要性を、リスクに応じて検討してください(重要度が高い場合はハッシュ値の保存も選択肢です)。


11. 運用でつまずきやすいポイント(チェックリスト)

  • 管理台帳に登録情報・校正期限・保管場所・使用可否ステータスがあり、期限切れ機器の使用をシステム的に防止できているか(目視確認のみに依存していないか)
  • 校正期限切れ・修理中・待機中・廃棄済みの状態識別が、電子台帳と現物ラベルの双方で一致しているか
  • 使用記録が製品ロット/検査記録と双方向に追跡可能か(OOT時の影響範囲特定に直結)
  • 不具合記録が不適合製品管理・CAPAに連動しているか(台帳内で閉じてしまっていないか)
  • 様式(テンプレート)の改訂が、運用中の電子フォーム・入力画面に確実に反映される仕組みがあるか(紙様式を差し替えても電子フォームが旧版のまま、という不整合が起きやすい)
  • 承認済み電子記録の事後訂正手順(訂正理由の必須入力、再承認、旧値の保持)が定義されているか
  • 測定機器を外部に貸与・修理委託した際の記録(持出・返却・受入時の検証)が残るか
  • 校正機関から届くPDFの受領経路(メール添付等)における真正性の確認方法が定められているか
  • 廃止した手順書・旧様式が誤って使用されないよう識別・隔離されているか
  • 記録の廃棄についても手順と記録があるか
  • 内部監査・マネジメントレビューで、電子記録システムの運用状況(監査証跡レビュー結果、アクセス権棚卸し、復元テスト結果)が報告されているか

12. 推奨する整備ステップ

  1. スコープ定義:対象市場・自社の立場・対象機器・対象記録・対象システムを一覧化(現状のハイブリッド状況を可視化)
  2. 文書/記録の区分表を作成:第5章の表形式で、各書類の区分・適用条文(QMS省令とISOを分けて)・保管期間・原本の定義を確定
  3. 測定機器管理規程/手順書の改訂:承認フロー、承認手段(電子署名が必要な記録の範囲)、原本定義、同時性・代行入力の条件、OOT対応、保管・アーカイブ・廃棄を明記
  4. ギャップ分析:QMS省令該当条文、ISO 13485 4.1.6/4.2.4/4.2.5/7.4/7.6、(米国向けなら)21 CFR Part 820・Part 11 に対する差分抽出
  5. システムバリデーション:リスクベースで計画・実施・報告
  6. 教育訓練と運用開始、以後はリスクベースの監査証跡レビューと内部監査で有効性を確認

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13. 注記・免責

※ 本回答は、ご質問に記載された内容のみを前提とした一般的な情報提供です。個別の製品区分(一般/管理/高度管理医療機器、特定保守管理医療機器等)、仕向け地、事業者の立場、既存QMSの成熟度によって結論は変わり得ます。

※ QMS省令の条番号(品質管理監督文書の管理、記録の管理、ソフトウェアのバリデーション、監視機器及び測定機器の管理、第3章の追加的要求事項)は、当社の理解に基づく記載です。改正により条番号が変動し得るため、必ず最新の省令原文および逐条解説通知でご確認ください。条番号の断定は避けています。

※ 記録・文書の保管年数は、製品区分・記録の種類・事業者の立場により異なるため、本回答では具体的な年数の断定を避けています。

※ ISO 13485:2016 に関する記述は、規格本文の逐語引用ではなく当社による要約です。正確な文言は正規版(またはJIS Q 13485:2018)をご参照ください。本文中のISOへのリンクは規格の概要・購入ページであり、規格本文の閲覧ページではありません。

※ ER/ES指針(薬食発第0401022号)、コンピュータ化システム適正管理ガイドライン(薬食監麻発0401第2号)、QMS省令の取扱いに関する通知、PIC/S PI 041 については、本文の恒久的URLを当社で確認できなかったため、推測URLの掲載は行わず、文書名・発出番号等のみを記載しています。

※ 21 CFR Part 11、PIC/S PI 041、ALCOA+原則は、日本の医療機器QMSに直接適用される法令・規格ではありません。米国規制対象の記録に該当する場合、または自社標準として採用する場合の要求・原則として位置づけてください。

※ EU MDR に関する記述は、EU市場向け製品がある場合の追加論点です。

※ 本回答では、社内教材等の未公開資料を根拠として提示することは行っていません(公開の一次情報でご確認いただける形にしています)。


株式会社イーコンプライアンス

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