No.43電子署名について
ログインすると、この質問と回答を Word でダウンロードできます(3 件まで無料)。
eTMFの電子署名:文書本体と別出力の「署名証明記録(PDF)」を一体保管する運用の適否
結論
「運用(SOP)で一緒に保管する」というルールだけでは、ER/ES指針が求める「電子署名と電磁的記録のリンクの不可分性」および「非改ざん性」の説明として弱く、査察・監査で指摘を受けるリスクがあります。
ただし、以下の3点がシステム側で技術的に担保され、かつCSV(コンピュータ化システムバリデーション=システムが意図どおり動作することを検証・文書化する活動)と手順書で裏付けられていれば、要件を満たすと合理的に説明できます。
- 署名情報(署名者氏名・署名日時・署名の意味)が、eTMFシステム内で当該文書レコードと不可分に紐付いたメタデータ/監査証跡として自動的に保持され、後から人手で改変・削除できないこと
- 署名証明記録のPDFが、人手を介さずシステムが自動生成し、編集・改変できない(かつ生成・出力操作自体も監査証跡に残る)こと
- 文書本体とPDFを一意に紐付ける識別情報(文書ID+版数+ハッシュ値等)が両者に含まれ、事後に対応関係を機械的に検証できること
なお、多くのeTMF製品には、承認完了時に「署名証明ページ(Signature Manifestation Page)」を文書PDFの末尾に自動付加した閲覧用レンディションを生成する機能が備わっています。まずはこの設定の有無をベンダーに確認することを強くお勧めします。これが実現できれば、本件の論点はほぼ解消します。
0. まず全体像を押さえる(初心者向け整理)
登場する「3つの要素」
| 要素 | 具体例 | 本件での位置づけ |
|---|---|---|
| ① 文書本体 | モニタリング報告書、治験実施計画書、SOPなどのPDF | 署名の対象となる「電磁的記録」 |
| ② 署名証明記録 | 承認ワークフローから自動生成される署名履歴PDF(氏名・日時・意味) | 「誰が・いつ・どの意味で」署名したかを示す記録 |
| ③ ①と②を結びつける識別子 | 文書ID、版数、システム内オブジェクトID、ハッシュ値 | 「不可分性」を技術的に説明する要 |
ご質問の状況は、①と②は存在するが③が明示されていない状態です。ここを補強できるかが判断の分かれ目になります。
ER/ES指針が求めるものを一言で
- 真正性:誰が・いつ・何をしたかが、改ざんできない形で追跡できるか
- 見読性:いつでも人が読める形で表示・印刷できるか
- 保存性:保存期間中、情報を失わずに保管できるか
- 電子署名の要件:署名者の本人性、改ざん検知性、署名の意味(作成/確認/承認)が明確か
「技術的担保」と「手順的担保」の違い
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 技術的担保 | システムの仕様・設定そのものが要件を強制する | 自動生成、編集不可設定、ログの自動記録、権限制御 |
| 手順的担保 | 人がルールに従うことで要件を満たす | SOP、命名規則、教育訓練、二重チェック |
規制当局は一般に、人為ミスの余地が残る手順的担保よりも技術的担保を高く評価します。本件の「一体で保管する」は典型的な手順的担保であり、これ単独では弱い、というのが結論の背景です。
1. 前提となる規制要件の整理
1-1. ER/ES指針(国内治験なら必須の参照文書)
「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号、厚生労働省医薬食品局長通知。いわゆるER/ES指針)
📄 厚生労働省:医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について(通知本文)
※ ER/ES=Electronic Records / Electronic Signatures(電磁的記録/電子署名)の略です。
適用範囲(なぜeTMFに適用されるのか)
同指針は、承認申請・届出等のために作成される電磁的記録およびGxP(GCP・GLP・GMP等)において作成・保存が求められる記録を対象としています。治験の必須文書(TMF:Trial Master File)はGCP上の保存義務がある記録であるため、電子的に作成・保存する場合はER/ES指針の適用対象となります。
したがって、eTMF上の承認済み文書は「真正性・見読性・保存性」および「電子署名の要件」の両方から評価されます。
指針の構成と本件との関係
| 章 | 内容 | 本件との関係 |
|---|---|---|
| 第3 電磁的記録利用のための要件 | 3.1 真正性/3.2 見読性/3.3 保存性 | 監査証跡・改ざん防止・見読性の根拠 |
| 第4 電子署名利用のための要件 | 電子署名法に基づく電子署名の使用、署名情報の明示、リンクの不可分性、管理・運用手順 等 | 署名情報の明示・不可分性の根拠 |
真正性(第3の3.1)で求められる主な事項(要旨)
- セキュリティを保持するための規則・手順の文書化と適切な実施
- 作成者の明確な識別、変更時の変更前情報の保存と変更者の識別
- 監査証跡の自動的な記録(人手を介さずシステムが記録すること)
- バックアップ手順の文書化と適切な実施
- CSVの実施
電子署名(第4)で求められる主な事項(要旨)
- 電子署名法に規定する電子署名を用いること(本人性・非改ざん性)
- 署名者名・署名日時・署名の意味(作成/確認/承認等)が明示されること
- 電子署名と当該電磁的記録のリンクが不可分であること(署名の切り離し・転用ができないこと)
- 署名の管理・運用に関する手順の文書化と実施、教育訓練
※ 上記は要旨です。実際に査察対応の根拠として引用される際は、必ず上記リンク先の通知本文で該当箇所の文言をご確認ください。条項の細目番号を含めて正確に引用することをお勧めします。
監査証跡に求められること(本件の評価ポイント)
ER/ES指針の真正性要件における監査証跡は、単に「ログがある」だけでは不十分で、次の性質が期待されます。
- 記録の作成・変更・削除・承認(署名)・取消といった操作が対象になっていること
- システムが自動的に記録すること(ユーザーが任意にオン/オフできない)
- 記録された監査証跡自体を、ユーザーが編集・削除できないこと
- いつ・誰が・何を・どのように変更したか(変更前後の値)が分かること
- 必要時に人が読める形で出力・レビューできること
→ 本件では、「署名証明PDFを出力する操作そのものが監査証跡に記録されるか」を確認する必要があります。
1-2. 電子署名法との関係
ER/ES指針第4は、「電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年法律第102号、いわゆる電子署名法)を前提としています。
📄 e-Gov法令検索:電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)
同法第2条第1項では、電子署名を次の2要件を満たす措置と定義しています(要旨)。
- 当該情報がその措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(=本人性)
- 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(=非改ざん性)
つまり、ER/ES指針でいう「本人性の証明」「非改ざん性の証明」は、この電子署名法の考え方に基づいて評価されます。ご質問のケースでは、②署名証明PDFが出力後に改変されていないことを確認できるかが、まさにこの第2号の観点に直結します。
1-3. GCP(治験の記録としての位置づけ)
📄 e-Gov法令検索:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)
- GCP省令には治験に関する記録の作成・保存義務が定められており、電子的に保存する場合はER/ES指針の要件が併せて適用されます。
- なお、GCP省令については見直し・改正の議論が進められています。改正の内容・施行時期は今後の公示によりますので、最新情報の確認をお勧めします。本件(電子署名の技術要件)に直接影響する改正が確定しているかどうかは、現時点では断定できません。
ICH E6(GCP)の改訂について
- ICH E6(R3) は段階的に策定・公表が進められており、日本国内への取り込み状況はステップごとに異なります。
- 最新の改訂の議論では、TMFの完全性(completeness)・可読性・記録の再構築可能性、およびバリデートされたシステムの使用が重視される方向にあります。
- ただし、これらを「現時点で国内法上の義務」と断定することは避け、ER/ES指針・GCP省令を一次的な根拠として整理することをお勧めします。
📄 ICH公式サイト:E6 Good Clinical Practice(ガイドラインページ)
1-4. 参考:米国 21 CFR Part 11(FDA査察が想定される場合のみ必須)
適用条件:グローバル治験でFDAへの申請・査察が想定される場合に必須の参照文書です。国内試験のみであれば直接の適用はありませんが、考え方の整理として有用です。
- §11.50 Signature manifestations:署名済み電子記録には、署名者の印字名・署名日時・署名の意味が含まれ、それらは記録の表示・印刷時に記録の一部として表示されること
- §11.70 Signature/record linking:電子署名は対応する電子記録にリンクされ、切り離し・コピー・転用ができないこと
📄 eCFR:21 CFR Part 11 Electronic Records; Electronic Signatures
※ §11.50(b)は「人が読める形での表示・印刷物に含まれること(as part of any human readable form of the record)」を求めています。別ファイルでの提示が直ちに不適合とまで明記されているわけではありませんが、この文言から「一体の出力物として提示できること」が期待されていると解するのが実務上の一般的な理解です(これは条文そのものではなく、当社を含む実務上の解釈です)。
1-5. 参考:EMA TMFガイドライン(EU申請・査察が想定される場合)
適用条件:EMAへの申請、EU域内でのGCP査察が想定される場合に重要な参照文書となります。
「Guideline on the content, management and archiving of the clinical trial master file (paper and/or electronic)」(EMA/INS/GCP/856758/2018)では、TMFからの出力・アーカイブ記録が元記録と同等の完全性を保つことが求められています。
📄 EMA:Guideline on the content, management and archiving of the clinical trial master file (paper and/or electronic)
2. ご質問の運用に対する評価
| 要件 | 現行運用での充足度 | 補足 |
|---|---|---|
| 本人性の証明 | ○(システム機能で対応可) | 一意なアカウント管理、パスワードポリシー等の運用が前提 |
| 非改ざん性の証明 | △ | 文書本体はシステム内で担保可。出力後のPDFの改ざん防止が課題 |
| 署名情報(氏名・日時・意味)の明示 | △ | 情報自体は存在するが、文書本体の表示・印刷物に含まれない |
| 記録と署名のリンクの不可分性 | △〜× | システム内では紐付いていても、エクスポート後は物理的に別ファイルとなり切断リスク |
| 監査証跡の自動記録 | △ | 文書操作は自動記録されていても、PDF出力操作が自動記録されるかの確認が必要 |
| 見読性・保存性 | △ | 長期保存時に両ファイルが確実にセットで移管・アーカイブされる仕組みが必要 |
| CSV | 要確認 | 署名機能・PDF出力機能をバリデーション範囲に含めているかが鍵 |
ポイントとなる考え方:「どこで保管・提示するか」で評価が変わる
(A) eTMFシステム内で保管・閲覧する場合
署名情報がデータベース上で文書レコードに紐付いたメタデータとして保持されていれば、リンクの不可分性は満たし得ます。この場合、文書ファイル自体に署名欄が印字されていないことが直ちに不適合とは言えません。
ただし、「システム内だから大丈夫」と楽観視するのは危険です。少なくとも次の点を、システム仕様書とCSV記録で確認してください。
- ユーザー権限で署名データだけを削除・変更できないか
- 署名後に文書ファイルの差し替え(版の上書き)ができてしまわないか
- 監査証跡が編集不可で、変更前後の値を保持する構造になっているか
- 管理者権限(システム管理者)による改変が可能な場合、それが監査証跡に残るか
(B) システム外にエクスポートして保管・提示する場合(試験終了後のアーカイブ、査察対応、監査資料の提出など)
ここで文書本体と署名証明PDFが分離すると、不可分性・非改ざん性の説明が困難になります。ご質問の懸念はまさにこの局面に該当します。
→ したがって、「一体の文書として保管する」という手順的担保のみに依存する対応は不十分であり、技術的な裏付けが必要、というのが評価の要点です。
3. 推奨される対応
3-1. 最優先:単一ファイル化(技術的解決)
もっとも確実で、説明コストが低い方法です。
- 承認完了時に、署名証明ページを文書PDFの末尾に自動付加した閲覧用レンディションを自動生成する設定に変更する
- あるいは、PDFのヘッダー/フッターに署名者名・署名日時・署名の意味を自動オーバーレイする機能を有効化する
ベンダーへの質問例(そのまま使えます)
国内ベンダー・国内運用中心の場合:
「ER/ES指針(薬食発第0401022号)第4『電子署名利用のための要件』で求められる、署名者名・署名日時・署名の意味を、承認済み文書の表示・印刷物そのものに自動的に含める機能はありますか。また、その出力はシステムが自動生成し、利用者が編集できない仕様になっていますか。」
海外ベンダー・グローバル製品の場合:
"Does the system support 21 CFR Part 11 §11.50 signature manifestation — i.e., automatically rendering the signer's printed name, date/time, and meaning of signature as part of the human-readable document itself?"
3-2. 単一ファイル化ができない場合の技術的補完
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 一意識別子の相互記載 | 文書本体・署名証明PDFの双方に、文書ID・版数・システム内オブジェクトIDを記載し、相互参照できるようにする |
| ハッシュ値の記載 | 署名証明PDFに、対象文書ファイルのハッシュ値(SHA-256等)を記載し、事後に同一性を機械的に検証可能とする |
| PDF出力の自動化 | 手動編集の余地をなくし、出力操作自体を監査証跡に自動記録する |
| PDFの保護 | 署名証明PDFにシステム側のデジタル署名(組織署名)とタイムスタンプを付与し、改ざん検知を可能にする |
| 時刻の信頼性 | NTP等による時刻同期、タイムゾーンの明示(UTC/JSTの別)をSOPで規定 |
| エクスポート単位の固定 | 文書本体+署名証明PDFを必ず同一フォルダ/同一ZIP等の単位でしか出力できないよう設定する |
3-3. 長期保存(保存性要件)への配慮
TMFは試験終了後も長期にわたる保存が求められるため、次の観点も検討してください。
- 保存フォーマット:長期保存に適したPDF/A形式での出力を検討する(フォント埋め込み等により、将来も同じ見た目で再現できる)
- 電子署名の長期検証:デジタル署名やタイムスタンプを用いる場合、証明書の有効期限切れ後も検証できるよう、LTV(Long Term Validation)対応(失効情報・証明書チェーンの埋め込み)を検討する
- システム廃止時の移行計画:システムをリタイアさせる際に、署名情報を含む記録をどの形式で移行・保存するかをあらかじめ計画(データマイグレーション計画/アーカイブ計画)に定めておく
※ 長期保存における署名検証可能性の維持は技術的難易度が高いため、実務上は「検証済みの状態でPDF/A化して固定する」「検証記録を別途文書化する」といった代替手段が採られることもあります。自社の保存期間・リスクに応じてご判断ください。
3-4. 手順・文書面での整備(手順的担保)
- SOPに、「承認済み文書」の定義=文書本体+署名証明記録の組であることを明記する
- 命名規則、保管場所、アクセス権限(承認後は編集不可とするロック)を規定する
- CSVにおいて、署名機能・署名証明PDF出力機能・エクスポート機能をテスト範囲に含める(IQ/OQ/PQ、特にPQで実運用シナリオを検証)
- ベンダー監査/サプライヤアセスメント記録、バリデーションサマリーレポートを整備する
- TMFアーカイブ(試験終了後の長期保存)への移管手順で、両ファイルが不可分に移管されることを検証する
- 関係者への教育訓練記録を整備する(ER/ES指針第4でも管理・運用手順と教育が求められます)
3-5. 査察・監査で説明できる状態にしておく
査察官から典型的に問われる点です。あらかじめ回答と実演手順を準備しておくことをお勧めします。
- 「この文書は誰が、いつ、どの立場(意味)で承認したのか。画面で示してください」
- 「その署名情報がこの文書のものであることを、どう証明しますか」
- 「署名証明PDFは編集できますか。編集した場合、検知できますか」
- 「PDFを出力した記録(誰が・いつ)は残りますか」
- 「システム廃止後も、この紐付けを再現できますか」
4. まとめ
- 文書ファイルの見た目に署名欄が印字されていないこと自体が、直ちにER/ES指針違反となるわけではありません。指針が求めているのは、署名情報が記録と不可分に保持され、見読可能で、改ざんが検知できることです。
- しかし、「別ファイルを一緒に保管する」という手順的担保だけでは、不可分性・非改ざん性の証明が弱く、特にシステム外へのエクスポート/長期アーカイブの局面でリスクが顕在化します。
- 最善策は、署名証明ページを文書PDFに自動付加して単一ファイル化することです。まずベンダーへの機能確認(3-1の質問例をご活用ください)を行ってください。
- 単一ファイル化が難しい場合は、①ハッシュ値等による紐付け、②出力の自動化・保護、③CSVでの検証範囲拡大、④SOPでの定義明確化により、技術的担保+手順的担保の二層でリスクを低減してください。
- なお、TMFでは「将来、システムがなくなった後でも、その文書が誰にいつ何の意味で承認されたかを再現できるか」が実務上重視される観点の一つです。ただしこれは形式要件に代わるものではなく、ER/ES指針の形式要件とTMFの完全性の両面から評価されるとお考えください。
※ 本回答は、いただいた情報の範囲での一般的な見解です。実際の適合性判断は、対象試験の規制当局(PMDA/FDA/EMA等)、システムの具体的な機能仕様、CSV文書の整備状況によって変わり得ます。
※ 本文中のER/ES指針および電子署名法の記載は要旨です。査察対応の根拠として引用される際は、必ずリンク先の原文で条項の文言をご確認ください。
※ GCP省令およびICH E6の改訂動向については、確定していない事項を含むため断定的な記載を避けています。最新の公示・通知をご確認ください。
貴社のeTMFシステムの具体的な機能仕様(監査証跡の記録項目、エクスポート形式、CSV文書の整備状況)をご提示いただければ、より踏み込んだギャップ評価と、査察対応を想定した説明ロジックの作成をご支援できます。お気軽にご相談ください。
株式会社イーコンプライアンス

