No.95米国QMSRについて
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1. 結論(3点)
1-1. QMSR には「DMR(医療機器マスターレコード)」という用語はもう存在しません
2026年2月2日施行の QMSR で、21 CFR Part 820 に ISO 13485:2016 が引用組込み(incorporation by reference)されました。これに伴い旧 §820.181(DMR)・§820.30(j)(DHF)・§820.184(DHR)を含む Subpart C〜O および §820.20〜820.30 は条文上 [Reserved](留保)となり、要求事項は §820.10 経由で ISO 13485 に移管されています。 FDA は最終規則コメント31で次のように説明しています。 “The recordkeeping requirements in ISO 13485 are substantively similar to those in the QS regulation and, because there is no reference to these terms in ISO 13485, we have eliminated this terminology as it is no longer necessary.” ご覧になった「DMR を維持しなければならない」という記述は、旧 QSR ベースの解説書か、MDF を旧称で意訳したものと思われます。1-2. 「リスト+参照」形式は必須ではありません(どちらでも可)
ISO 13485 4.2.3 の原文は “establish and maintain one or more files either containing or referencing documents” です。つまり①一冊に綴じ込む、②索引から各文書を参照する、③その混在 ― いずれも適合です。ISO の実務ガイドも「文書全体、認可された写し、または QMS 内の他所にある文書・記録の索引として維持できる」と明記しています。 なお旧 §820.181 も “shall include or refer to the location of” でしたので、実はこの点は昔から変わっていません。1-3. 欧州技術文書の流用は可能です(ただし「そのまま提出」では足りません)
MDF は EU 技術文書と目的が違います。EU 技術文書=適合性を証明する申請用ドシエ、MDF=その製品を作り・検査し・出荷し続けるための現行仕様と手順の集合です。重なる部分は大きいものの、製造・検査・据付・サービスの実務手順まで踏み込む点で MDF の方が「工場寄り」です。2. 旧用語 → QMSR での受け皿(1対1ではありません)
| 旧用語 | QMSR での受け皿 |
| DMR | ISO 13485 4.2.3(医療機器ファイル/MDF) |
| DHF | ISO 13485 7.3(特に 7.3.10 設計・開発ファイル)+ §820.10(c) |
| DHR | ISO 13485 4.2.5(記録の管理)+ 7.5.1/7.5.8/7.5.9(製造管理・識別・トレーサビリティの記録)+ §820.35(c) |
3. ギャップ・マッピング(ISO 13485 4.2.3 × MDR Annex II)
| ISO 13485 4.2.3 の必須項目 | EU 技術文書(MDR Annex II)で流用できるか |
| (a) 一般的記述・意図する使用・ラベリング・IFU | ◎ 1.1・1.2 をほぼそのまま流用可(ただし米国版ラベル/IFU は別途) |
| (b) 製品仕様 | ◎ 2(設計・製造情報)を参照 |
| (c) 製造・包装・保管・取扱い・流通の仕様または手順 | △ Annex II 3 は「製造工程の概要」止まり。実手順書・工程仕様への参照追加が必要 |
| (d) 測定・監視の手順 | △ 検証データはあるが、日常の受入/工程内/最終検査手順への参照追加が必要 |
| (e) 該当する場合、据付要求事項 | △ 該当機種は追加参照 |
| (f) 該当する場合、サービス手順 | △ 該当機種は追加参照 |
4. 米国固有で必ず足すもの(欧州技術文書に存在しない)
4-1. UDI 関連 ― 「付与」と「記録」で根拠条文が分かれます
- UDI の付与・GUDID 登録 → 820.10(b)(1) → 21 CFR Part 830
- 820.10(b)(1):For Clause 7.5.8 in ISO 13485, Identification, the manufacturer must document a system to assign unique device identification to the medical device in accordance with the requirements of part 830 of this chapter.
- 記録への UDI 記載 → 820.35(a)(3)(苦情記録)・(b)(2)(サービス記録)・(c)(7.5.1/7.5.8/7.5.9 に関連する製造記録)
- 機器ラベルへの UDI 表示 → 21 CFR 801.20
4-2. その他の米国固有要求
- 米国ラベリング:21 CFR 801(処方箋機器は109、IVD は 809)。CE マーク版とは別文書
- 820.45(ラベリング・包装管理):出荷前の UDI/UPC・使用期限・保管/取扱い/追加処理指示の正確性確認、および混同防止のための使用前検査とその記録。条文が「medical device file に規定されたとおりの正しいラベリングであること」を確認せよという構造のため、
- 820.35(a)(1)〜(7):苦情記録の指定項目(機器名/受領日/識別情報/申立人連絡先/苦情の性質と詳細/是正処置/回答)
- 820.35(b)(1)〜(6):サービス記録の指定項目(機器名/識別情報/実施日/実施者/内容/試験・検査データ)
- 市販前区分の証跡:510(k)/De Novo/PMA 番号、SE レター、Product Code、施設登録・機器リスト
- 関連規則への接続:MDR 報告(Part 803、820.10(b)(3))、回収・改修(Part 806、§820.10(b)(4))、トラッキング(Part 821、§820.10(b)(2))
5. 逆に、EU 固有で MDF には不要なもの
GSPR チェックリスト、CER、PMS 計画/PSUR、SSCP、EU 適合宣言書、Basic UDI-DI、EU 代理人情報など。 残しておいても違反ではありませんが、MDF に綴じ込むと「自社が定めた文書」として査察対象になり、版管理義務が生じます。索引上で「US MDF 対象外」と区分しておくのが安全です。6. 推奨する実装(新規作成を最小化する方法)
機種または機種ファミリごとに「MDF インデックス(1枚の参照表)」を作る方式をお勧めします。- 行 = ISO 13485 4.2.3 (a)〜(f) + QMSR 補足要求(UDI、米国ラベリング、820.45、市販前区分)
- 列 = 参照先文書番号/版/保管場所(EU 技術文書のセクション番号でも可)
- 本体には内容を転記せず、すべて参照で済ませる
6-1. 運用上の注意点2つ
- 参照先が文書管理下(2.4)にあり、査察官の要求に即座に提示できること。 FDA はファイルの名称も形式も規定していませんが、「MDF を見せてください」に数分で応じられるかは見られます。
- MDF は現に製造している現物と一致していること。 EU 技術文書は申請サイクルに合わせた改訂頻度になりがちですが、MDF は現行の製造実態を反映していなければなりません。この点でも参照方式(常に最新版を指す)が有利です。
6-2. 呼称について
社内での呼称を「DMR」のまま残すことは問題ありません。FDA は名称を規定していないため、中身が 4.2.3 を満たしていれば呼び方は自由です。ただし将来、旧 21 CFR Part 820 を知らない担当者が入ることを考えると、SOP 上で「DMR=ISO 13485 4.2.3 の医療機器ファイル」と定義を明記しておくことをお勧めします。7. 出典
- eCFR — 21 CFR Part 820 Quality Management System Regulation(構成・Reserved 状況)
- eCFR — § 820.10 Requirements for a quality management system
- eCFR — § 820.35 Control of records
- 21 CFR § 820.45 Device labeling and packaging controls (govregs)
- Federal Register — Medical Devices; Quality System Regulation Amendments (Final Rule, 2024)
- FDA — Quality Management System Regulation (QMSR)
- ISO 13485:2016 Medical devices — A Practical Guide
- Johner Institute — QMSR: The end of 21 CFR part 820?
追加質問 1確認ですが、MDFインデックスを新たに作成し、既存の欧州技術文書、社内手順書及び米国固有文…
米国QMSRにおけるMDF(医療機器ファイル)の構成について(追加ご質問への回答)
1. 結論
概ねその理解で結構です。ただし、押さえていただきたい前提が1点あります。
- 可能です:「MDFインデックス(参照表)」を新規に作成し、そこから ①欧州技術文書(MDR Annex II)の該当部分、②社内の仕様書・手順書、③米国固有文書 を参照する形でMDFを構成することは、ISO 13485:2016 4.2.3 に適合します。
- ただし:MDFの実体は「インデックスそのもの」ではなく、インデックス+そこから参照される管理された文書群の全体です。インデックスを作っただけでは要求を満たしません(参照先が文書管理下にあること等が条件になります)。
まず、次の3点だけ押さえてください。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ① 参照方式でよい | ISO 13485:2016 4.2.3 は "one or more files either containing or referencing documents" と規定。収録でも参照でも、その混在でも適合 |
| ② インデックス単体≠MDF | MDF=インデックス+参照先文書群。参照先は文書管理下(4.2.4)にある必要がある |
| ③ 記録は入れない | 製造記録・検査成績書等(旧DHR相当)はMDFではなく「記録」(4.2.5等)として別管理 |
2. 前提の整理:MDFはどの規制に基づく要求か
ここは混同されやすい点ですので、先に整理します。
- MDF(Medical Device File/医療機器ファイル)は、ISO 13485:2016 4.2.3 の要求事項です。
- QMSR(Quality Management System Regulation、21 CFR Part 820)は、ISO 13485:2016 を引用組込み(incorporation by reference)する構造をとっており、§820.10 を通じてこの4.2.3の要求が米国の法的要求になります。
- つまり「QMSRがMDFの中身を直接規定している」のではなく、QMSRが取り込んだISO 13485 4.2.3 がMDFの中身を規定している、という関係です。QMSR側(§820.35、§820.45 など)は、これに米国固有の上乗せ要求を追加している、と理解すると整理しやすくなります。
※QMSRの施行日は2026年2月2日です(FDA — Quality Management System Regulation (QMSR))。
※用語について:QMSRでは旧QSR用語である DMR/DHF/DHR は条文上使用されなくなりました。社内呼称として「DMR」を残すこと自体は差し支えありませんが、それは社内便宜上の呼称であり、現行の法令用語ではない点をSOP上で明記しておくことをお勧めします。
2-1. 似た3つの概念の切り分け
| 用語 | 位置づけ | 性質 |
|---|---|---|
| EU技術文書(MDR Annex II) | 適合性評価・当局提出のためのドシエ | 「この製品は要求に適合している」ことを証明する文書 |
| MDF(ISO 13485 4.2.3) | 製品タイプ/ファミリごとの仕様・手順のファイル | 「この製品をどう作り、検査し、出荷するか」の現行仕様と手順 |
| 旧DHR相当の製造記録 | ロット記録・検査成績書・出荷記録等 | 「実際にどう作ったか」の結果の記録 |
EU技術文書とMDFは重なる部分が大きいものの、同義ではありません。ですので正確には「EU技術文書を流用する」というより、「EU技術文書の該当セクションを、MDFの参照先の一部として活用する」という整理になります。
3. MDFに「入れるもの」「入れないもの」
3-1. 入れるもの(ISO 13485 4.2.3 (a)〜(f))
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| (a) | 一般的記述、意図する使用/用途、ラベリング(使用説明書を含む) |
| (b) | 製品仕様 |
| (c) | 製造(manufacturing)、包装(packaging)、保管(storage)、取扱い(handling)、流通(distribution)の仕様または手順 |
| (d) | 測定・監視の手順 |
| (e) | 該当する場合、据付要求事項 |
| (f) | 該当する場合、サービス手順 |
※4.2.3 は「医療機器の型式(type)ごと、または医療機器ファミリごと」にファイルを確立・維持することを求めています。この単位設定がMDF設計の出発点です。
3-2. 米国固有で追加を検討するもの(該当する場合)
| 項目 | 根拠 | 備考 |
|---|---|---|
| 米国版ラベル/使用説明書 | 21 CFR Part 801(IVDは Part 809、処方箋機器は §801.109) | CEマーク版とは別文書。製品区分により適用条項・記載要件が異なります |
| UDI付与・GUDIDへの登録に関するルール | §820.10(b)(1) → 21 CFR Part 830 | 該当する場合。クラス・適用除外により対象外となる製品もあります |
| ラベリング・包装管理 | §820.45 | 条文が「medical device file に規定されたとおりの正しいラベリングであること」を確認する構造のため、MDF側にラベリング仕様が特定できる形で入っている必要があります |
| 市販前区分の証跡 | 510(k)/De Novo/PMA番号、SEレター、Product Code | MDFの必須項目ではありませんが、参照情報として持たせると査察対応が容易です |
※施設登録(Establishment Registration)・機器リスト(Device Listing)は、企業単位で管理する規制情報であり、機種ごとのMDFの必須構成要素ではありません。載せる場合は「参考情報」と明示してください。
3-3. 入れないもの
- 製造記録(旧DHR相当):ロット記録、検査成績書、出荷記録など。ISO 13485 では 4.2.5(記録の管理)、7.5.1/7.5.8/7.5.9 の別建てです。手順書は載せても、その実施記録は載せないが原則です。
- EU固有文書:GSPRチェックリスト、CER、PMS計画/PSUR、SSCP、EU適合宣言書、Basic UDI-DI、EU代理人情報など。載せること自体は違反ではありませんが、載せた瞬間に「自社がMDFの一部と定めた文書」として査察対象になり、版管理・整合性維持の義務が生じます。インデックス上で「参考情報(US MDF対象外)」と区分することを推奨します。
4. ご理解を図にすると
【MDFインデックス】(機種または機種ファミリごとに1枚)
│ ← これ自体が文書管理下の「文書」
│
※ MDF=インデックス+以下の参照先文書群の総体
├─→ EU技術文書(MDR Annex II)該当セクション …(a)一般記述・意図する使用・ラベリング等
├─→ 製品仕様書・図面・部品表(BOM) ……………(b)製品仕様
├─→ 製造手順書・工程仕様・包装/保管/取扱い/流通手順 …(c)
├─→ 受入/工程内/最終検査手順・検査規格 ………(d)測定・監視の手順
├─→ 据付手順書(該当機種のみ)……………………(e)据付要求事項
├─→ サービスマニュアル・修理手順(該当機種のみ)(f)サービス手順
└─→ 米国固有文書群(該当する場合)
├ 米国版ラベル/IFU(21 CFR Part 801、IVDは Part 809)
├ UDI付与ルール・GUDID登録手順(§820.10(b)(1) → Part 830)
├ ラベリング検査・照合手順(§820.45)
└ 510(k)/De Novo/PMA 番号、SEレター、Product Code(参考情報)
5. この構成を成立させるための条件(6点)
5-1. 参照先がすべて文書管理下(ISO 13485 4.2.4)にあること
参照先が「担当者のPC内のExcel」「個人フォルダ」などにあると、参照方式は成立しません。承認・版管理・配付管理・廃版管理がなされている文書のみを参照先にしてください。
5-2. 参照の記載が一意に特定できること
最低限、次の3要素を持たせます。
- 文書番号
- 版数(または「最新有効版」+文書管理システム上の解決可能なリンク)
- 保管場所/システム名
※「技術文書一式」のような粒度の粗い参照は避けてください。査察官が「(c)の流通に関する手順はどこですか」と尋ねたときに即答できる粒度が必要です。
5-3. 4.2.3 (a)〜(f) の全項目に「行」があること
該当しない項目(例:据付を要しない機器の(e))は空欄にせず、「N/A(据付を要しない機器のため)」と除外理由を明記してください。空欄は「未検討」と読まれるリスクがあります。
5-4. 参照先文書の改訂がMDFに伝播する仕組みがあること
参照方式の最大の利点は版ズレが起きないことですが、それは変更管理プロセスがMDFインデックスを「影響を受ける文書」として拾う設計になっている場合に限ります。
- 設計変更(ISO 13485 7.3.9)/文書改訂の手順に、「MDFインデックスの見直し要否を判定する」ステップを追加する
- 文書番号自体が変わる改訂(新規発行・統廃合)が起きた場合はインデックス改訂が必須
- 電子リンクを使う場合は、リンク切れ検知・承認版への固定・参照先変更時の再承認の仕組みを定めておく(DMS/PLM運用における最重要論点です)
5-5. MDFが「現に製造している現物」と一致していること
EU技術文書は認証・申請サイクルに合わせた改訂になりがちですが、MDFは現行の製造実態を反映していなければなりません。両者の更新タイミングがずれる可能性がある場合は、EU技術文書ではなく社内の製造仕様書・手順書を直接参照先にする方が安全です。
5-6. 提示性(査察対応)
FDA査察において「MDFを見せてください」と言われた際に、インデックスから参照先を短時間で提示できることが実質的なポイントです。紙・電子いずれでも構いませんが、社内リハーサルを一度行っておくことを強く推奨します。
※海外拠点で保管する文書についても、FDAの求めに応じて速やかに提示できる体制が求められます。英語以外の文書について英訳の提供を求められる場合もありますので、主要文書の英語版整備は検討しておく価値があります(運用上の慣行であり、具体的な条項要件は個別にご確認ください)。
6. MDFインデックスの記載イメージ
| ISO 13485 4.2.3 / 米国固有要求 | 参照先文書番号 | 文書名 | 版 | 保管場所 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| (a) 一般的記述・意図する使用・ラベリング・IFU | TD-XXX-001 §1.1, §1.2 | EU技術文書 一般情報 | 最新有効版 | DMS | EU技術文書の該当部を参照 |
| (a) 米国版ラベル/IFU | LBL-US-001 | 米国向けラベル・添付文書 | Rev.3 | DMS | 米国固有(21 CFR Part 801) |
| (b) 製品仕様 | SPEC-001 / DWG-001〜015 / BOM-001 | 製品仕様書・図面・部品表 | 最新有効版 | PLM | |
| (c) 製造・包装・保管・取扱い・流通 | MFG-SOP-010 ほか | 製造工程手順書・包装手順・保管/出荷手順 | 最新有効版 | DMS | EU技術文書は工程概要止まりのため追加 |
| (d) 測定・監視の手順 | QC-SOP-020 ほか | 受入/工程内/最終検査手順・検査規格 | 最新有効版 | DMS | |
| (e) 据付要求事項 | — | — | — | — | N/A(据付を要しない機器のため) |
| (f) サービス手順 | SVC-MAN-005 | サービスマニュアル | Rev.2 | DMS | |
| UDI付与・GUDID(§820.10(b)(1)、Part 830) | UDI-SOP-001 | UDI管理手順書 | Rev.1 | DMS | 該当する場合 |
| ラベリング・包装管理(§820.45) | LBL-SOP-002 | ラベリング検査・照合手順 | Rev.2 | DMS | 米国固有 |
| 市販前区分の証跡 | REG-US-001 | 510(k) K番号・SEレター・Product Code | Rev.1 | 薬事フォルダ | 参考情報 |
※「最新有効版」表記を使う場合は、文書管理システム上で常に最新版に解決されるリンク運用であることが前提です。紙運用では版数を明記する方式が安全です。
7. よくある落とし穴(3点)
7-1. 製造記録(旧DHR相当)をMDFに入れてしまう
実務で最も多い誤設計です。MDFは「作り方の仕様・手順」、製造記録は「実際に作った結果」です。インデックスには手順書を載せ、その実施記録は載せないでください。
7-2. EU固有文書を無区分でインデックスに載せてしまう
前述のとおり、載せた瞬間に自社が定めたMDFの構成要素となり、版管理・整合性維持の義務が生じます。区分表記を必ず入れてください。
7-3. 「機種ファミリ」の定義根拠が残っていない
複数機種を1つのMDFにまとめる場合、なぜ同一ファミリと判断したのか(設計の共通性、製造工程の共通性、意図する使用の共通性など)の根拠をSOPまたはインデックス冒頭に記載してください。査察で問われやすい箇所です。
8. SOPへの落とし込み(推奨する規定内容)
MDFは「文書の集合体」であるため、SOPで定義しないと運用が属人化します。品質マニュアルまたは文書管理SOPに、以下を追記することを推奨します。
- MDFの定義
- 記載例:「MDF(Medical Device File)とは、ISO 13485:2016 4.2.3 に基づく医療機器ファイルをいい、当社では MDFインデックス および同インデックスが参照する文書群の総体をもって構成する。なお社内で用いる『DMR』の呼称は当社の便宜上の社内呼称であり、現行の21 CFR Part 820(QMSR)上の法令用語ではない。」
- MDFインデックスの様式・文書番号体系
- 作成・改訂・承認の責任者
- 医療機器ファミリ単位でまとめる場合の判断基準
- 定期レビューの頻度とトリガー(設計変更、工程変更、ラベリング変更、規制変更、マネジメントレビュー等)
- 参照先文書の改訂時に、インデックスの見直し要否を判定する手順
- MDFに含めないもの(製造記録、EU固有文書)の明示
9. 実施ステップ(推奨手順)
| ステップ | 内容 | 想定工数感 |
|---|---|---|
| ① | ISO 13485 4.2.3 (a)〜(f) + 米国固有要求を行とするギャップ分析シートを1機種分作成 | 小 |
| ② | 各行について、既存のEU技術文書/社内手順書で充足できるかを確認し、参照先を埋める | 中 |
| ③ | 空欄(=米国固有・手順書不足)を洗い出し、不足文書のみ新規作成 | 中〜大(機種依存) |
| ④ | MDFインデックスを正式文書として発行・承認 | 小 |
| ⑤ | 変更管理SOPに「MDFインデックス見直し要否判定」を組み込む | 小 |
| ⑥ | 他機種へ横展開(①〜④のテンプレート化) | 小 |
| ⑦ | 模擬査察で提示性を確認 | 小 |
新規作成が発生するのは主に③の部分だけであり、欧州技術文書の書き直しは不要です。この点でも、ご検討中の方針は合理的と考えます。
10. 補足(判断が分かれ得る点)
- 条文解釈上、参照方式が認められることは ISO 13485:2016 4.2.3 の文言から明確です。ただし、個々の査察官の着眼点や説明の求め方まで保証するものではありません。
- そのため、インデックスは「文書番号だけの最小限の1枚」にとどめるより、各行に「何のための文書か」を1行で添える方が、査察時の説明コストが下がると考えます。
- 製品区分(IVD、処方箋機器、クラス分類、UDI適用除外の有無等)によって、米国固有で追加すべき文書は変わります。実際の機種で個別に確認されることをお勧めします。
11. 出典
- FDA — Quality Management System Regulation (QMSR)(QMSRの概要、2026年2月2日施行)
- FDA — CDRH Webinar: QMSR Key Takeaways(FDAスライド資料)
- eCFR — 21 CFR Part 820 Quality Management System Regulation(§820.10 品質マネジメントシステムの要求、§820.35 記録の管理、§820.45 ラベリング・包装管理 を含む)
- eCFR — 21 CFR Part 830 Unique Device Identification
- eCFR — 21 CFR Part 801 Labeling
- eCFR — 21 CFR Part 809 In Vitro Diagnostic Products for Human Use
- ISO 13485:2016「Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes」4.2.3 医療機器ファイル、4.2.4 文書の管理、4.2.5 記録の管理、7.3.9 設計・開発変更の管理
- ※ISO規格は有償頒布のため、条文本体を公開するURLはありません。規格票をご購入のうえ原文をご確認ください。
- FDA最終規則「Medical Devices; Quality System Regulation Amendments」(89 FR 7496、2024年2月2日公示/2026年2月2日施行)— 前文における記録関連用語(DMR/DHF/DHR)の整理に関する説明
- ※連邦官報本文の正確なURLは本稿では併記しておりません。Federal Register の該当巻号(89 FR 7496)でご確認ください。
ご不明点や、実際の機種でのギャップ分析シート作成・MDFインデックス様式のご相談などございましたら、お気軽にお申し付けください。
株式会社イーコンプライアンス

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