No.99ALCOA+とは何ですか

データインテグリティ投稿者: むらりん2026年8月17日 19:47
データインテグリティの研修でALCOA+という言葉を聞きました。初心者にも分かるように、それぞれの意味と、紙の記録と電子記録での具体例を教えてください。
公式回答株式会社イーコンプライアンス2026年8月17日 20:04

ALCOA+(アルコア・プラス)とは

結論

ALCOA+とは、記録・データが「信頼できるもの」であるために備えるべき9つの属性を、頭文字で覚えやすくまとめた枠組み(=良い記録のチェックリスト)です。

  • ALCOA(5属性): Attributable(帰属性)、Legible(判読性)、Contemporaneous(同時性)、Original(原本性)、Accurate(正確性)
  • +(プラス、4属性): Complete(完全性)、Consistent(一貫性)、Enduring(永続性)、Available(利用可能性)

ALCOA+は、紙の記録でも電子記録でも同じように適用されます。ただしALCOA+は法令の条文そのものではなく、PIC/SやWHO、MHRAなどのデータインテグリティ(DI)ガイダンスで示された「記録管理の原則を整理した概念」です。GMP・GCP・GLPなど各GxP規制が求める記録要件を、横断的に理解するための「共通言語」とお考えください。

※「データインテグリティ(Data Integrity、データの完全性)」とは、英国MHRAのガイダンスでは「データがそのライフサイクル全体(作成→処理→保存→アーカイブ→廃棄)を通じて、完全(complete)・一貫(consistent)・正確(accurate)・信頼できる(trustworthy)・信用に足る(reliable)であること」と定義されています(Guidance on GxP data integrity(MHRA, 2018年3月))。「完全・一貫・正確」だけでなく、信頼性まで含む概念であることがポイントです。


1. ALCOA+の位置づけと主な参照文書

項目 内容
性格 規制条文ではなく、DIガイダンスで用いられる整理概念。監査・査察でも「ALCOA+の観点で記録を確認する」という使い方をされます
「+」の位置 もともとALCOA(5属性)として記録要件の教育で用いられてきた語呂合わせに、DIガイダンスの整備(2016年前後〜)に伴い4属性が加えられ、ALCOA+として広く使われるようになりました
主な参照文書 ・PIC/S PI 041-1「Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments」
・WHO Technical Report Series No.996, Annex 5「Guidance on good data and record management practices」(2016年)
MHRA「'GXP' Data Integrity Guidance and Definitions」(2018年3月)
FDA「Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers」(Guidance for Industry, 2018年12月)

※ ALCOA+という用語そのものの使い方は文書によって異なります。たとえばMHRAガイダンスは「ALCOA+」という語を前面に出すのではなく、data integrityの定義と各属性(complete、consistent、accurate、trustworthy、reliableなど)の要求として記述しています。したがって「各文書にALCOA+に相当する要件が説明されている」と理解するのが正確です。

※ ALCOAの語源については「1990年代に米国の査察・監査実務の教育の場で使われ始めた」との説明が広く流布していますが、当社が確認できた一次資料はありません。起源の断定は避け、「現行ガイダンスで整理された原則」として扱うことをお勧めします。

※ PIC/S PI 041-1、WHO TRS No.996 Annex 5については、掲載URLが改訂・移設で変わることがあるため、ここでは文書名・番号のみを記載しています。PIC/S公式サイト(picscheme.org)の刊行物一覧、WHO公式サイトから最新版をご確認ください。

日本の規制との関係

日本の法令にALCOA+という用語を明記したものはありません。ALCOA+は国際ガイダンス上の整理概念であり、日本では以下の要求に横断的に関係するという位置づけです。

  • 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令、平成16年厚生労働省令第179号) — 文書及び記録の管理、製造・試験記録の作成と保管等
  • 医薬品等の製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(平成24年4月1日 薬食監麻発0401第2号)— コンピュータ化システムのバリデーション、運用管理(監査証跡、アクセス管理、バックアップ等)
  • 医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について(いわゆる「ER/ES指針」、平成17年4月1日 薬食発第0401022号)
  • 米国の電子記録・電子署名規則: 21 CFR Part 11(eCFR)

2. ALCOA 5属性 ― 意味と紙/電子の具体例

A:Attributable(帰属性)=「誰が、いつ」が分かる

良い例 指摘されやすい例
実施者が氏名(フルネーム)と日付を自筆で記入。署名・押印の見本一覧が管理されている 実施者欄が空欄/他人が代筆/鉛筆で記入
電子 個人別ユーザーIDでログインし、監査証跡に「実施者・日時・操作内容」が自動記録される ID/パスワードの共有、共通アカウント(admin等)で全員が操作

※「監査証跡(Audit Trail)」とは、誰がいつどのデータをどう作成・変更・削除したかを自動的に記録し、後から追跡できる仕組みです。

L:Legible(判読性)=読める・理解できる(訂正履歴も含む)

良い例 指摘されやすい例
消えないインクで記入。訂正は二重線で元の記載が読める状態にし、正しい値・訂正者の署名・日付・訂正理由を記載 修正液・塗りつぶしで元の値が読めない/判読不能な筆跡/社内定義のない独自略号
電子 保存期間を通じて読める形式を確保(アプリケーション+閲覧手段の維持、PDF/A等)。項目名・コードの意味が定義されている 独自形式のため装置廃棄後に開けない/文字化け

C:Contemporaneous(同時性)=作業と同時、遅くとも遅滞なく記録する

良い例 指摘されやすい例
秤量したその場で正式な帳票に数値を記入 メモ用紙に書いて翌日まとめて清書(=メモが原本になってしまう)
電子 システム時刻をNTPサーバ等で同期し、タイムスタンプを自動付与。時刻変更権限を制限 一般ユーザーがPCの時計を変更できる/後日まとめて手入力

※「同時」とは、実務上は「作業と同時、または作業直後に遅滞なく」という意味です。数分のタイムラグが即違反となるわけではなく、遅れが記録の正確性を損なうか遅れて記録することが手順書で許容・定義されているかが評価のポイントになります。

O:Original(原本性)=原本、または真正な写しを保持する

良い例 指摘されやすい例
原本の帳票を保管。写しを使う場合は、原本と同一であることを検証・承認した真正な写し(True Copy)として管理 原本を破棄し、手書き転記だけを残す
電子 HPLC等の分析機器では電子的な生データ(クロマトグラムのローデータ)が原本。その電子原本を保存し、バックアップで保全する 印刷したクロマトグラムだけを保存し、電子データは装置内で上書き/削除

※ 原則として、電子的に取得・生成されたデータは電子データが原本であり、印刷紙はその派生物(出力)と位置づけられます。ただし記録の性質や取得方法によっては、紙が原本となる場合や、紙をスキャンして「真正な写し」として電子保存する運用もあり得ます。どちらが原本かをシステム・記録ごとに定義することが重要です。

※ 「バックアップ」は原本ではありません。原本は元データそのもの、バックアップは永続性・利用可能性を確保するための複製です。両者を手順書上で明確に区別してください。

※ 真正な写し(True Copy)を用いる場合は、①作成方法(スキャン設定、変換手順)、②原本と一致していることの確認方法、③確認者・承認者、④原本の取扱い(保管または廃棄の可否)を手順書で定めておく必要があります。

A:Accurate(正確性)=事実と一致し、誤りがない

良い例 指摘されやすい例
記入後に第二者が確認・署名。校正済み機器の値を転記し、転記後に照合 期待値に合わせて数値を書き換える/転記ミスの放置
電子 計算式やレポート出力を検証(バリデーション)。機器からの自動取込みで手入力を減らす 計算式が未検証/重要データのセルを誰でも自由に上書きできる

※ Excel等の表計算ソフトは「使ってはいけない」わけではありません。用途に応じた検証(計算式の妥当性確認)、シート・セルの保護、アクセス権設定、ファイルの保存場所と変更管理、監査証跡の代替措置を整えることが求められます。


3. 「+(プラス)」4属性 ― 意味と紙/電子の具体例

Complete(完全性)=すべてのデータが欠けなく残っている

良い例 指摘されやすい例
中止したロットの記録、逸脱記録、無効とした試験の記録も、理由とともに保存 都合の悪い記録を差し替え・破棄する
電子 エラー終了した測定、再解析、再試験の記録も保存。監査証跡もデータの一部として保存 良い結果が出るまで測定を繰り返し、記録を残さない

※ ポイントは「実施したデータを恣意的(都合により選択的)に除外しない」ことです。装置の状態確認やシステム適合性試験など、あらかじめ手順書で目的・扱いを定めた予備的測定は、その定義に従って管理すれば問題ありません。逆に、規定なく「試し打ち」を繰り返して都合の良い結果だけを採用する運用(いわゆるTesting into compliance)は、重大な指摘につながります。

Consistent(一貫性)=時系列・様式に矛盾がない

良い例 指摘されやすい例
記載日付が工程順と矛盾しない。日付形式(YYYY/MM/DD等)を手順書で統一 後工程の記録日が前工程より前になっている
電子 タイムゾーン・時刻同期を統一。関連システム(LIMS・MES・ERP)間で同一ロットの値が一致 サーバとクライアントで時刻がずれ、操作順序が追えない

Enduring(永続性)=保存期間中、劣化・消失せず残る

良い例 指摘されやすい例
感熱紙(レシート状の記録)は退色するため、真正な写しを作成して併せて保存。保管環境(湿度・害虫・火災対策)を管理 感熱紙の記録をそのまま長期保管し、判読不能になる
電子 定期的なバックアップとリストア(復元)テスト、媒体の劣化・陳腐化対策(マイグレーション)、システム廃止時のアーカイブ計画 バックアップを取っているが、復元できるか一度も確認していない

Available(利用可能性)=保存期間を通じて、必要なときに取り出せる

良い例 指摘されやすい例
保管場所・索引(インデックス)を管理し、査察時に速やかに提示できる どこにあるか分からず、提示に数日かかる
電子 旧システムのデータも閲覧手段(読取専用環境や変換済みデータ)を確保。検索可能な状態で、必要な人にアクセス権を付与 旧システムを廃棄し、データが開けない/権限者が退職して誰も開けない

※ Availableには「①保存期間全体を通じて読み出せる」「②必要なデータを検索して特定できる」「③適切なアクセス権管理のもとで提供できる」という3つの側面があります。


4. まとめ表(9属性の一覧)

略語 英語 日本語 一言で言うと
A Attributable 帰属性 誰が・いつ、が分かる
L Legible 判読性 読める・理解できる(訂正履歴も含む)
C Contemporaneous 同時性 その場で、遅滞なく記録する
O Original 原本性 原本または真正な写しを保持
A Accurate 正確性 事実どおり、誤りがない
+ Complete 完全性 すべて残す(失敗・再試験も)
+ Consistent 一貫性 時系列・様式に矛盾がない
+ Enduring 永続性 保存期間中、消えない・劣化しない
+ Available 利用可能性 必要なときに取り出せる

ALCOA++について

一部の文献・教材では、これにTraceable(追跡可能性)を加えて「ALCOA++」と表現することがあります(EMAの臨床試験におけるコンピュータ化システム・電子データに関するガイドライン(2023年)でもTraceableを含む考え方が示されています)。ただし、現在も一般的・標準的に用いられているのはALCOA+(9属性)です。社内手順書を作成する際は、「どの文書の定義に従うか」を明記し、用語を統一しておくことをお勧めします。


5. 初心者がつまずきやすい「よくある誤解」

よくある誤解 正しい理解
紙の記録に押印があればALCOA+を満たす 押印だけでは不十分。いつ実施したか、訂正履歴、原本の保管まで整っている必要があります
電子データはPDF化して保存すれば十分 元データ(ローデータ)と監査証跡が失われる場合は不十分。何が原本かの定義が先です
監査証跡機能をONにしていれば良い 機能の有効化に加え、誰がいつどの観点でレビューするかを手順化し、実施記録を残すことが求められます
紙に印刷して保管しているから電子データは消してよい 電子データが原本である場合、原則として電子データを保存します。廃棄するなら、真正な写しの要件を満たしているかを事前に評価・文書化してください
ALCOA+は電子システムだけの話 紙の記録にも同じく適用されます(訂正ルール、原本管理、保管環境が主要論点です)

6. 実務でまず取り組むと効果的なポイント

  1. 原本(生データ)の定義とデータフローの棚卸し: 各業務・各システムについて「何が原本か」「どこに保存されるか」を一覧化(データマップ/データフロー図)
  2. アカウント共有の廃止と権限分離: 個人IDの付与、管理者権限と一般ユーザー権限の分離、権限付与・変更の記録
  3. 監査証跡の有効化とレビューの手順化: レビュー担当者、頻度、確認観点(データ削除・変更・時刻変更・再解析の有無等)を手順書に明記
  4. 紙/電子のハイブリッド運用の整理: 電子データがあるのに紙だけを保存している運用、逆に紙が原本なのに管理が曖昧な運用を洗い出す
  5. バックアップとリストアの実効性確認: 復元テストを定期的に実施し、記録を残す
  6. 教育訓練とデータガバナンス: 「ALCOA+の意味」だけでなく、責任分担(誰が何を担保するか)、逸脱・不備の報告ルート、是正処置(CAPA)まで含めた組織的な管理体制として整備することが、規制実務上は重要です

参考にできる主な文書

※ URLを記載していない文書は、掲載場所が改訂等で変わる可能性があるため、文書名・発出番号のみを記載しています。各発行機関(PIC/S、WHO、厚生労働省/PMDA)の公式サイトで最新版をご確認ください。


ご自社の記録・システムについて「どこまでALCOA+を満たせているか」を確認したい場合は、データフローの棚卸し(何が原本かの特定)→ ギャップ分析 → 手順書・システム設定の是正という順序で進めるのが確実です。個別システム(LIMS、HPLC、MES、Excel台帳など)ごとの評価方法や手順書への落とし込みについても、ご相談を承っております。

株式会社イーコンプライアンス


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https://www.youtube.com/watch?v=75LVX5rWgzw

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